Agility Design株式会社

事例紹介

アステラス製薬株式会社様

Agility Designのお客様事例紹介、今回はアジャイルコーチサービスをご利用いただいたアステラス製薬株式会社より、Rx+事業創成部の柴田さんとCMCディベロップメント原薬研究所の鈴木さん、Agility Designより木村、稲野、中野で対談をしました。

アステラス製薬株式会社は、2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念の下、患者さんのニーズに応える革新的な医療ソリューションを届けておられます。

医療用医薬品(Rx)の事業に加え、Rxで培った経験を活かし、病気の予防、診断、治療および予後管理を含むヘルスケア全般において患者さんに貢献するRx+事業を展開されています。

Rx+事業創成部柴田さん
CMCディベロップメント原薬研究所鈴木さん
自己紹介をお願いします。
柴田
アステラス製薬Rx+事業創成部の柴田です。Rx+事業創成部は、バイオエレクトロニクスやデジタルヘルス、デジタルセラピューティクスといった、医薬品ではない方法で人々に価値を届けるための新規事業創出を担当している部門です。今回、部で実施したスクラムではスクラムマスターを担当しました。
鈴木
アステラス製薬CMC ディベロップメント原薬研究所の鈴木です。原薬研究所は薬の有効成分である原薬の製造プロセス開発を担っており、私は研究推進業務を担っています。今回、研究所で実施したスクラムではスクラムマスターとして活動に参画しました。
スクラムをやってみたいと思われた経緯、きっかけは何でしたか。
柴田
スクラムやアジャイルという言葉自体は知っていましたが、真にどういう意味なのか、どうすれば実現できるのかは正直よくわからずにいました。当時、Rx+事業創成部では二つの課題を抱えていました。一つはどうすればユーザーのニーズにフィットした製品やサービスができるのか、もう一つはどうすればもっと早く製品やサービスを患者さんに届けられるか。その際にアジャイルの言葉の定義を見て、この考え方は今まさに我々に必要ではないかと調べ出したのがきっかけです。アジャイルの手法は、スクラム以外にも様々あるため、どれが良いのかと悩んでいた時に中野さんに出会いました。いろいろお話をする中で、一番幅広く使われていて、ノウハウの蓄積もあるスクラムから始めるのがよさそうだから、始めてみようとなりました。
鈴木
私達は書籍をきっかけに、アジャイル開発の考え方やその手法であるスクラムに興味を持ちました。私達研究所は、バイオ医薬品の原薬製造にも取り組んでいますが、ある技術開発の領域では他社が先行しており、アステラスが早く追いついて競争力を高めるためにこれまでと異なるアプローチが必要だと考え、新しい試みとしてスクラムをやってみました。開発者は研究室横断で若手をピックアップして、5~6年目の若手3人と新人2人、プロダクトオーナーはスクラムを一番やりたがった所長、スクラムマスターは私が担いました。研究所に全員毎日出社していたので、スクラム席を新たに設け、そこを拠点に毎朝9時に全員集合し、とにかくやろうと言って、始めてみました。当時は、失敗を恐れないアステラスの風土を作り出そうという時期だったので、もし失敗しても、何らか学びのある賢い失敗になるだろうと励まし合いました。今までのやり方を継続しても、他社から一周遅れている溝は埋められないので、新しいアプローチに挑戦することに価値があると考えました。
スクラムをやってみて、どんなよかったことや成果がありましたか。
鈴木
技術開発については、今まで通りのやり方でやっていたら2-3倍の時間がかかったと思うので、スクラムを採用することでかなり速くなったと思います。研究所ではプロジェクトの確行と技術開発を両輪として進めていますが、専任で技術開発だけに取り組む人がいない現状で、少ない人数でも集中して物事を進められたことが速さにつながったと思います。
柴田
スクラムをやってよかったことは、大きく3つありました。
  1. コミュニケーションが増えた
    デイリースクラムは、実際にやってみると、たった15分でそのとき困っていることの相談や進捗確認が全てできるので、とても効率的な会議だとわかりました。当時はほとんどがオンラインのコミュニケーションでしたが、カメラをオンにして毎朝お互いの顔を見ることで、互いの状況を理解できました。スプリントレビューは、社内のステークホルダーから毎週フィードバックをもらい、すぐにプロダクトに反映することで、小さな手戻りで済み、大きな工数削減になったと思います。
  2. 小さなチャレンジがたくさんできた
    頻繁に振り返りをする機会が今までなかったので、レトロスペクティブでは、最初はなかなか改善アクションが出てきませんでした。しかし、小さな引っかかりをチームに伝えてくれるメンバーが出てきて、それを実際に変えてみてチームが良くなることを実感してからは、メンバーそれぞれが気軽に小さな引っかかりを伝えるようになりました。1週間のスプリントだったので、変化を起こしてみて駄目だったら翌週また変えればよい、というマインドを醸成でき、たくさんのチャレンジに繋がったと感じています。
  3. 仕事の見える化
    今、何が進んでいて何が残っているのか、スプリントレビューまでに何から順にやっていかなければいけないのかが、ホワイトボードで誰が見てもわかるような状態になっていたので、安心して仕事ができました。また、オンラインのホワイトボードとMicrosoft Teamsを使ってドキュメントレビューをしていたので、メールを検索する必要がなく、結果的に時間短縮/仕事の効率化にも繋がったと思います。
中野
スプリントレビューで印象的だったのは、初回のスプリント時に一つもストーリーが完成せず、「レビューにかけるものがないですね」と、木村さんが単刀直入なコメントをし、場が一瞬凍り付いたことです。
木村
あまり覚えていませんが(笑)、「レビューにかけるものがない場合でも、ちゃんとレビューをしましょう」と話しました。スプリントレビューはフィードバックをもらうだけが目的ではなく、今後の話もしますし、コミュニケーションをしてもっとプロダクトを良くするためになど、スプリントレビューの目的を共有できたのでよかったと思います。
鈴木
私たちのチームでは、行動やマインドの変化が6つあり、結果として他社から周回遅れだった技術開発を短期間で大きく前進させることができました。
  1. 「ビジネスデザインを考え、そこからプロダクトバックログを考える」
    実際の活動を始める前にビジネスゴール・ミッションをみんなで話し合い、合意しました。他の仕事ではここまで時間をとってやらないのですが、ゴールに向かって共通の認識を持つことの大切さを理解する意味で学びが大きかったです。
  2. 「仕事のリズム」
    スプリントごとにスクラムイベントを繰り返すことが仕事のリズムになりました。大きな仕事のリズムはスプリントで、小さなリズムは朝会で、と仕事がうまく回るきっかけになりました。
  3. 「仕事の進捗管理」
    スクラムボードにより、日を追うごとにToDoタスクが減り、Doneが増えていくのが見える化されるため、日々の達成感に繋がります。若いメンバーが運用を工夫して、自律的に進捗管理できたことが良かったです。
  4. 「仕事をこなす力」
    スプリントバーンダウンチャートを作り、パフォーマンスの変化を可視化しました。スプリントを重ねるごとに開発チームが完了できる仕事の量が増え、生産性が向上しました。それがさらなるモチベーションの向上につながりました。
  5. 「チームの技術力」
    稲野さんから紹介を受け、お互いに助け合えるチームになろうとスキルマップを作成しました。当初は、特定の専門性に強みはあるが他分野は未経験というメンバーも多くいましたが、スクラムを通じて技術の習得が進み、チーム全体として技術力アップが図れました。
  6. 「仕事の進め方を改善し続ける」
    レトロスペクティブで、うまくいったことや良かったことを皆で喜び合い、次のスプリントをより良くするために何をするか、時間をとって話しました。KPTやFun Done Learnなど様々なやり方を試すのも、とても楽しかったですね。次のスプリントのトライを皆で決めて、実際にやった結果をその次のレトロスペクティブでふりかえることで、グッドサイクルを回し続けることができました。
稲野
当時を思い出すと、レトロスペクティブで挙がっている「良かったこと」が本当にたくさんありました。良かったことに目を向けること自体が、ないがしろにされがちですが、良かったことを挙げることをふんだんにやったチームでした。それが、グッドサイクルを回すことに繋がった秘訣だったように思います。
中野
スキルマップの取り組みはすごかったですね。新人の方が何人かいらっしゃる中で、あれだけ皆さんがスキルを伸ばされているのはすごいと思いました。
鈴木
私も本当に皆すごいなと思いました。研究員はそれぞれ専門領域があるので、自分の専門領域以外は他の人におまかせという文化がありましたが、実際に手を動かすことで、より広い視野をもってプロセス理解を進めることができ、課題を議論できるようになりました。今は新たなメンバーが加わりスクラムチームで活動していますが、特定領域の課題が顕在化しており、その分野に専門性の強みをもつメンバーが中心になって課題に取り組んでいます。ただ、レトロスペクティブでこの状況をどう思うかという話はしています。今はこのまま続け、また別のフェーズに入ったらスキルマップを充実させる取り組みをやってもよいのではとチームで話しています。
稲野
チームとして今の自分達の状態が自覚的であれば良いと思います。無自覚でそうなっていて、気がついたらチームが成長できていないという状況はよくないですが。また、チームのありたい姿も都度、皆で話し合うと道を間違えることも少なくなると思います。
スクラムをやってみて一番苦労したことは何ですか。どう解決していきましたか。
柴田
変化を体感できるまでの2か月が、スクラムマスターとしては一番しんどかったです。私が言い出しっぺというのもありますが、従来のやり方に比べて何が良くなるのか、特にスプリントゼロは成果物が出ない状態が1ヶ月続くので、これを続けて大丈夫だろうかと思うところもありました。1回目のスプリントレビューで何もできなかった時は絶望しましたが、コーチの木村さんや中野さんからも、最初はすぐに変化が出ないというのを聞いて、今は堪え忍ぶときだと思って続けることができました。
中野
柴田さんは、スクラムマスターと開発者を兼務されていたので、スクラムマスターとして振舞う場合もついHowまで喋ってしまうことを悩まれていましたね。途中からは、今はスクラムマスターとして喋ります、と前置きして話したり、喋らないように黙ったり、いろいろ工夫されていたのが印象的でした。
柴田
私はどちらかというと自分でグイグイとプロジェクトを推し進めるタイプだったので、自分自身でも抑えないと、というのはありました。話し分けという点で気付きがあったのは、私自身は開発者の立場と思って喋っていても、聞き手はスクラムマスターが喋っているから聞かなくてはならないものだと捉えているということでした。それゆえに、こちらがきちんと配慮しなければならない、という話し手と聞き手の捉え方の差が自分の中で腹落ちするまで時間がかかりました。
鈴木
私達が一番苦労したのは、2週間スプリントに自分たちの仕事を当てはめることでした。技術開発は、一つの実験の検討に最低でも数週間必要ですが、中野さんと稲野さんからは、スプリントは1週間もしくは2週間で設定してくださいと言われました。そう言われても、1週間や2週間でとても成果物を出せるものではないんです。スプリントは期間であり、長い時間がかかる一連の仕事を短い一定期間ずつに区切る、そこに導いてもらったのが目から鱗でした。この期間でのゴールはここ、と掲げることで仕事により集中できるようになりました。仕事のリズムとしてスプリントは定着したものの、スクラム本来の強みである、小さく試してフィードバックの機会を多く得ることについては課題が残っています。複数回のスプリント結果をまとめてリリースのレビューは出来ても、スプリント毎にはステークホルダーを招くことはできません。それでもチーム内ではレビュー会を実施しており、どうしたらフィードバックの機会をたくさん得られるのか、私達にとっての一番良い形を模索しています。
中野
タイムボックスを切ってそこに当てはめるというのは、今までの仕事の進め方とは全く異なりますので、実際にやるとなると難しいと思います。ちゃんと作ってからでないと見せられないと思ってしまったり、逆にこんな状態で持ってくるなと言われてしまったりすることもありますよね。
アジャイルコーチが入ることで、どんなよいことがありましたか。
柴田
スクラムは今までの働き方と全く異なるため、意識していても無意識に元のやり方に戻ってしまうことがたくさんありました。それに対して、アジャイルコーチから第三者かつフラットな視点で指摘をもらえたのが良かったです。
具体的にチームが変わったきっかけとして、スプリントレビューのやり方に対する指摘があります。私達の従来の会議は、リーダーに対し、提案して承認をもらうスタイルでした。このため、スプリントレビューも同様に、リーダーに提案を承認してもらおうと開発者が喋りすぎてしまい、フィードバックが得られない状況が続いていました。その際、「スプリントレビューは、成果物に対してフィードバックをもらって、今後どうするか議論をする場であって、承認や説得をする場ではないよ」とコーチに繰り返し指摘いただきました。その指摘を受けて、どうすればもっとフィードバックをもらえるのかという議論がレトロスペクティブの中で何度か上がり、スプリントレビュー自体がどんどん良い方向に変わっていきました。従来の会議のやり方以外の会議の方法など考えたこともなかったので、指摘がなければ気付けなかったと思いますし、そもそも変えるという発想も出てこなかったのではないかと思います。
また、スクラムマスターの立場では、1on1がとてもありがたかったです。これでよいのか悩むこともが多かったので、精神的に支えていただきました。木村さんとの1on1で、どういうチームにしたいか、どういうスクラムマスターになりたいか、と問いかけをもらい、自分自身も頭の中を整理する良い機会になりました。コーチが相手の問題意識をうまく引き出して、モチベーションを高め、アクションにつなげる手法も勉強になりました。
鈴木
私が印象に残っていることは、進捗管理に厳しいフィードバックをもらったことです。最初はエクセルを項目別に複数シートに分けてタスクを洗い出しましたが、稲野さんから「一目でわからないと駄目。見える化、透明性を向上しないと駄目だよ」と言われました。また、担当者を最初から決めることについても、「専門性は理解するけど、その人がいなくなってしまったらどうしますか。仕事が止まりますよ。」確かにその通りです。「スケジュールもあらかじめ厳密に立てちゃ駄目だ。何かあったときに、遅れることはあっても加速化には絶対繋がらない管理表だ」、「日々の状況に合わせて担当者がスケジュール更新しないと駄目ですよ」と言われました。頑張って作ったのにと少し落ち込みましたが、オンラインのホワイトボードを使ったタスク管理方法を紹介してもらい、すぐに切り替えました。今までのやり方が染み付いていて気づかないチームに、稲野さんは、穏やかな口調でグサッと客観的な指摘をくれ、チームの成長に大きな影響を与えてくれました。
今後はどのようにスクラムに取り組んでいかれる予定ですか。
柴田
昨年度実施したメンバーでコーチなしで新たなプロジェクトをスプリントゼロからやろうと話を始めています。加えて、実際の新規事業のプロジェクトに是非スクラムを入れたいと言う要望がありますが、従来の業務委託ではなくスクラムに合う準委任契約に変更する必要があったりと変化が大きいため、検討を進めている状況です。
鈴木
今回取り組んだ技術開発を実際の製造に適用できることを目指し、同時にスクラム発展版を模索しています。取り組んでいる技術開発そのものと、スクラムという戦術の両方の認知度を高めて、興味を持ってくれる人や仲間になってくれる人を少しずつ増やして、モノづくりをシン化(進化・深化)させるという私達のチームビジョンに向かって進んでいけたらと思っています。
これからスクラムに取り組む方にメッセージをお願いします。
柴田
やってすぐに効果が出るものではないので、徹底的に型通りにやってみる、信じて続けることが大事だと思います。最初は慣れないことも多いですが、スクラムは確立された手法で、多くの実績があります。続けることで変化が生まれ、変化が生まれるとチームが楽しく強くなると思うので、変化が出るまで粘って頑張って続けることが大事だと思います。
鈴木
私達もまだ発展途上で試行錯誤の連続ですが、スクラムはチームで心を一つにしてチームビジョンに向かって今やることに集中できます。メンバーの自律性や自発性を高めて、個々の能力をもっと高める挑戦を続け、現状の課題を継続的に改善していく。このことを通じて、成果物と仕事の進め方の両方をより良いものにできます。スクラムは、チームが楽しく、強く成長できる有効なアプローチだと思います。完璧に準備しなくてもいい、できるところから始めて改善を続けることが大事だと思います。
そして、やるなら“本気”で取り組むことをお勧めします。(笑)
中野
最後にお二人からいただいたメッセージは、これから取り組む方に非常に心強い素敵なメッセージだと思いました。ありがとうございました。
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